今回の討議では「課員が危機感を持っていない」「“チャレンジしなければ、失敗することもない”という考えをするメンバーが増えた」といった変革を阻むマインドや職場風土があるという報告が複数ありました。そのような現状を踏まえて、では危機感や緊張感を醸成するには?といった議論も当初交わされたのですが、議論は危機感の醸成の「その先」を見据えた内容に昇華していきました。現状維持を打破しメンバーを鼓舞するために危機感を醸成することは必要ではあるものの、一方でその後の持続的な態度変容・行動変容には別のエネルギーが必要になると考えます。心理学者のエドガー・シャインは変革を成功させるには、「現状維持では生き残れないということへの不安(SA:survival Anxiety:)>新しいことを学ぶことへの不安(LA:learning Anxiety:)」という不等式の成立を唱えています。更に重要なことは、SAを高めるために危機感に訴えることは有効ではあるものの、LAを下げることにより目を向けるべきだ、と説いています。変革を担うミドルにとっても「現状維持では生き残れない」という不安を高めてメンバーの背中を押すに留まらず、新しいことに挑戦すること、未知の領域に踏み出す前向きな気持ちをメンバーにもってもらうことが肝要と考えます。そのような前向きなエネルギーの源泉のひとつがビジョンやゴールであると考えますが、今回の討議においても「メンバーが腹落ちするような課のビジョンを設定する」「チャレンジするビジョンを咀嚼して現場に伝える」といった施策が提案されました。またそれらのビジョンやゴールへ向かう気持ちを側面から支援するのがLA低下のための働きかけになりますが、今回の討議では「失敗に対する現場のハードルを下げるための施策」として、某社で実践している「失敗した本人が講師となって失敗事例を検証・共有する勉強会」が紹介され、他社の参加者も興味・関心を持って耳を傾けていました。「しくじり先生」というユニークな名称も失敗事例というネガティブな印象を払拭する狙いがあるとのことでしたが、失敗を共有することで再発防止を行うと同時に、似たようなミスが起きた時に相談できるネットワークを作るという目的もあるとのことでした。この勉強会は誰でも参加ができ継続的に行われているとのことですが、新しいことを学び、挑戦することへの不安を低減する好事例でした。ミドルが変革を担うアクチュエーターとして機能するために、メンバーの危機感をあおるに留まらず、ビジョンやゴールを示すことでメンバーの前向きなエネルギーを引き出し、同時に学習のプロセスそのものを支えて不安を排除することに取り組むことが肝要であることを、一連の議論を通じて理解頂いた様子でした。